プロローグ 『平和の種、災厄の芽』

白を基調とした石で作られた荘厳な神殿内を、二人の少女が歩いていた。年の頃は17歳ほど。顔立ちの良く似た少女達で、宵闇のような漆黒の髪は、一人は少年のように短く切られ、もう一人は腰まで長く伸びていた。
二人の背中からは純白の一対の翼が生え、それが彼女たちは人間でないことを物語る。
瞳は黒と金に彩られたオッドアイ。二人が二人とも両の目の色が違っていた。短い髪の少女は左目が、長い髪の少女は右目が、夜の闇に浮かぶ月の金色だ。
「ねぇ、シオン」
短い髪の少女が、もう一人に話しかける。
「僕たちは……何で呼ばれたんだろう……?」
少し首をかしげると、シオンと呼ぶ長い髪の少女を見る。
「……さぁ?私に心当たりはありません」
さっぱり解らない、とでも言うように、シオンは肩をすくめて首を振る。
そして、半ば呆れたような顔をして、
「……シャナ、もしかしてあなた、何か問題を起こしたんじゃないですか?」
短い髪の少女、シャナに疑わしげな視線を向けた。
「あはは……まさか。僕は別にアカデミアで変なことはしてないよ!」
「……はぁ、まあ、そういうことにしておきましょうかね……」
「あ、ま、待ってよ!シオーン!」
自分をおいてさっさと先に進むシオンを、シャナが慌てて追いかけていった。


「シオン、シャナ。よく来ましたね。」
そこには、慈愛を湛えた瞳をした女性が一人立っていた。ゆるくウェーブを描き、重力に任せて流れる長い髪は、輝く太陽のような金色。彼女の背中には、シオンやシャナと同じく純白の翼が生えていたが、それは二人のものよりも大きく、淡い光を帯びている。
彼女が四人の大天使の一人、ガブリエルであることは、シオンとシャナも知っていた。
――二人が容易に会うことの出来る天使ではない、ということも。
「はい」
「はいっ」
シオンはやや緊張した面持ちで顔を上げ、シャナは緊張のあまり上ずった声を上げた。
そんな二人を見て、ガブリエルはにこりと微笑む。だが、すぐにその表情が曇り目を伏せる。
「今日、あなた達を呼んだのは他でもありません」
ガブリエルの穏やかな声が、聖グラシア宮内に響く。
「実はあなた達に、重要な任務を任せたいのです」
「ええっ!?」
ガブリエルから語られたその言葉に、シャナは驚いて声を漏らし、シオンは大きく目を見張った。
通常、大天使の勅命を受けることなどまずありえない。ましてやアカデミアを卒業したばかりのシオンとシャナであればなおさらだ。
「…どんな任務でしょうか?」
気を取り直し、そう聞くシオンだったが、ガブリエルの口から出たのはさらに信じられない言葉だった。
「それは、地上界インフォスの守護です。」
その言葉を聞いて、二人は目を丸くして顔を見合わせる。
地上界の守護は本来ならば上級天使が負うべき任務であり、自分たちのような初級天使が受け持つものではない。
戸惑いを隠せない二人に、ガブリエルはなおも語る。
インフォスの時が止まり、淀んでいること、上級天使達に『時の風』を送らせ、その場をしのいでいること、上級天使達が『時の風』を維持できるのは十年の間だけで、それまでに『時の淀み』の原因を見つけて対処しなければインフォスは消滅してしまうこと、そして――
「あなた達の魂が……最もインフォスの空気に馴染むものだからです」
「私達の魂が……」
「ええ、いくら位の高い天使であろうとも、魂が馴染まなければ全力を発揮することは出来ません。この任務を任せられるのは……あなた達しかいないのです。」
「僕達しか……いない」
自分達しかいない、という言葉に二人の表情が変わる。
「シオン、シャナ。……行ってくれますね?」
ガブリエルのその言葉に、二人は再び顔を見合わせ、互いに頷きあう。
その目にもう迷いは無かった。
「はい、地上界インフォスへ……参ります!」

実際のゲームの中のフェバ天使とは性格が全然違います。
シオンは冷静沈着、厳格で慇懃。シャナはフレンドリー、楽観的で好奇心旺盛です。
裏表無いまっさらできれいな天使はここにはいないです。